2008.06.21
HERO「堀さんと宮村くん」
(←画像をクリック)「なによー晃一のバカー!!私、宮村くんのところいっちゃうからね!!」
「バカ言ってんじゃねえ!!宮村のとこへ行くのは俺だ!!」
(79話「正午」より)
aiceさんとこで知ったWebコミック。面白過ぎて気が付いたら一晩中読んでいたよ。しかもまだ読み終わっていない。読み終わるのが勿体無い。最終回の卒業式を読むのが怖い。
高校二年生の堀京子は、怪我した弟を送ってくれた見知らぬ青年をお礼の意味をこめてお茶に誘う。実はその青年は京子のクラスメイトであり、暗く内向的な雰囲気とオタクっぽさにクラス内で孤立していた宮村伊澄だった。髪を上げて数多くのピアスをしたあまりの容姿の変わりように、京子は宮村とは気付かなかったのだ。そして伊澄が弟創太の面倒を見に堀家へ通ううち、京子と伊澄の間には奇妙な絆が生まれ、クラス内の伊澄の立ち位置にも変化が起こり始める。
堀さん宮村くんのラブコメエピソードを中心にクセのある友人・家族が活躍しまくります。各キャラクター毎に一定数固定ファンが付いてそうなキャラの立ちまくり方は壮絶。どいつもこいつもいい味を出し過ぎています。登場時はイヤ〜な奴だと思っていたキャラクターがその後のエピソードで名誉回復、好感の持てるキャラになっていくのが非常に心地良い。伊澄の友人がだんだん増えていくのが嬉しい。レミのトリッキーさが好きだ。虫の話をしながらレミとデートしたい。ミャムラとにゃんごくと夢の中で暮らしたい。伊織のチーズケーキが食いたい。河野の桜クッキーも食いたい。新藤と友達になりたい。書ききれない。個人的には漫才系の新藤晃一、堀親父、井浦秀あたりが好き。エピソードでは66話「弱い強さ」73話「パズルとピース」81話「絡まって」、あと"井浦くんに聞いてみよう!"全般とオマケの"○○ってエロいよね"シリーズがたまらない。
こんなクオリティの漫画をタダで読めるなんていい世の中になったもんです。というか紙媒体で読みたい。書籍化を切に希望。
2008.02.09
福満しげゆき「僕の小規模な失敗」

まともに考えればたしかに生活能力もないような僕といるより…彼女は実家に帰ったほうがいいにちがいない………………でも僕は…彼女をはなさない…僕のために!!(P137)
福満しげゆきの自伝的日記マンガ。作者の高校入学から結婚までを描く。
主人公である「僕」はどうにかこうにか高校へ入学するが、持ち前の社交性の無さに加え、同級生の程度の低さと職業訓練的な授業に馴染めない。そこでマンガ家になろうと一念発起し一心不乱に描き続けるものの、元々描きたいものがないまま始めたマンガは行き詰まり、留年、そして退学。友人と始めたルームシェアも頓挫、学生に戻ろうと定時制高校に通うがそこでも居場所を作ることはできなかった。
ちょっと前から気になっていたマンガで、友人がこれの続編を目の前で買っていたので気になって読んでみました。・・・わー読むのきっつー。読んでてグサグサ来るというか気分が沈んでくるというか、主人公が社会に向ける妬みと僻みと羨望の眼差し、そして身の置き所の無さ加減は間違いなく自分そのものです。人を誘いもしないくせに死ぬほど誘われたがっていたり、自分と同級生を比較しては意味も無く落ち込んだり・・・心当たりがあり過ぎる。社会から孤立して肥大した自意識に妄想が加わるとホント身動きが取れなくなるですよ。嗚呼獣のようなこのすがた。その点この作品の「僕」は部員を集めて学校に柔道部を作ったり、意中の彼女に猛烈アタックをかけたりと、意外に行動派で暗くてダメなだけの人間とは違う感じ。常に要所で自分を冷静によく分析できています。第11話あたりの"なぜこんなに悲しいのか"という下りはクオリティが高過ぎ。思春期のあのモヤモヤした劣等感や懊悩を克明に描き出していて凄いです。普通の人には恥ずかしくてなかなか告白出来ない心の内を独白している点がポイント高め。できたらどん底の高校時代に読みたかったな。高校夏休みの推薦図書にすべき一冊です。
しかし、これほどまでに自分をさらけ出した後の創作活動というのはどんな感じなんでしょう。普通チビチビ切り出していくものを最初に全部見せてしまったような気が。やっぱり以降は日記マンガがメインになるのかな?「NHKにようこそ」の滝本竜彦みたく懊悩したもの全てを吐き出したらゼロになったりしそうなものですが。それでも人生は続くわけで本作最終ページ、ラストのコマで読者に微笑みかける「僕」が強く印象に残りました。
2008.01.31
ゴージャス宝田「キャノン先生トばしすぎ」

「グラビアは映像に、映像は生身の肉体にはかなわない・・・そして生身の肉体を凌駕できるのは個々人の妄想だけです。『妄想』にエネルギーを与え続けるイメージソース、それこそが僕の考える最良のエロマンガです」(P88より)
もう一月も終わるという日にあけましておめでとうございます。本年度も宜しくお願いします。新年の記事一発目はエロマンガということで以下は大人の判断で。
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2007.05.03
佐々木淳子「ダークグリーン」全5巻

「S国の人間は信用できませんね」
「何いってんだよ、どうしてここに現実の国家争いを持ち込むんだよ、同じ人間じゃないか」(1巻P214より)
濃厚なSF作品を描く少女漫画家佐々木淳子による夢の世界の壮絶な戦い。83年より週刊少女コミックで連載開始、後に雑誌コロネットへ移動。もともとのコミックス版は全10巻。現在無料WebコミックMiChaoにて関連作「ディープグリーン」が連載中。
その日、全人類が同じ夢を見た。ゼルという巨大な悪夢が襲い掛かってくるその夢は「Rドリーム」と呼ばれ、眠ったまま死ぬ人間が出るなど大きな社会現象となっていた。美大浪人2年目の西荻北斗はRドリームを信じずバカにしてさえいたが、友人が眠ったまま死んだ事にショックを受けRドリームに入ろうと試みる。果たして意識を保ったままRドリームに入った北斗は、自身が歴戦の勇士でありRドリーム最強と呼ばれる戦士リュオンの親友ホクトである事を知る。
姉貴のマンガを盗み見て少女マンガにハマった私が、最も燃えたSF超大作。チラリと読んだその日から単行本は常に私の部屋にありました。ただの夢冒険だと思ったら次々と展開して、あれよという間に人類全体の問題へと繋がっていく、とてつもないストーリー展開と世界観が魅力。
現実では冴えない浪人生、夢の世界では屈強な戦士という願望的な設定はさておき、やわらか頭で思考しなければ全く先へ進めない謎解き要素、植物意識界の冒険では種としての人類の立ち位置、文明の行く末、生物進化の担い手まで総括する壮大なスケール感、封じられた北斗の別人格、リュオンの尋常じゃない愛らしさ、余韻を残すラストシーンとそこらのSFに引けをとらない魅力に溢れています。画的にも不可思議で移ろいやすいフィールドが、いい加減な「夢」というものを上手く表現しているように思います。
全世界の人間が夢の世界に集い戦う、という世界観がネットゲーム、今で言うMMORPGな感じで80年代にかなりの先取り感があります。以前テレビアニメの.hack//SIGN(良作)を見て『おお、Rドリーム』などと思ったことも。皆の遊び場であるネトゲと違い、大多数の人間にとってRドリームは強制的に放り込まれる悪夢であって、楽しめるようなレベルのものではありませんが。夢という対等の場で人種も国籍も、言葉の壁も無く交流できたとしても人間は分かり合えないという結論は似ていますね。でも出会いによっては現実では起こり得ない友情が生まれたりして。バロー、ミュロウ、リュオン、ホクトの一行にはお互い何も共通点は無いけれど、心の強い結び付きを感じて非常に頼もしいです。
あれから十年以上が経ちました。状況がさらに悪化した今、リュオンは未だ一人で勝ち目の無い戦いを続けているのでしょうか。何とか応援したいもんです、この現実から。
2007.04.30
武富健治「鈴木先生」1,2巻

だけど この謎かけが真意を打ち明けるにふさわしい相手かをはかる取り返しのつかない最後の賭けだとしたら――――オレはなんとしても今日!真実にたどり着かなければならないんだ(1巻P35より)
理想の教育に燃える若き男性教諭、鈴木先生が教え子のデリケートな問題と正面から向かい合う。
舞台は区立緋桜山中学校。2年A組の担任教師、鈴木は給食時間中に問題行動を起こす男子生徒、出水(いずみ)に頭を悩ませていた。必要以上に食事をかき混ぜ、汚い言葉で周りを不快にする・・・優等生だった出水がなぜ突然そんな行動に出たのか、いくら考えても分からない鈴木。実はその引っ掛かりは鈴木自身の心の奥深くの葛藤と繋がっており・・・
マンガがあればいーのだ。の記事を読んで以来、たまらなく読みたくなって探してたのですが、ようやく1,2巻ゲット。お、面白ぇぇぇ!今日びの中学生を扱った事件としてはそれほどセンセーショナルなものはありませんが、思春期真っ只中の子供達の微細な心のヒダ、青春の苦悩に対して非常に真剣に、真摯に向かい合っている印象です。傍からみれば中坊一人の些細な問題でも、本人にとってみればここまで生きてきた十数年の生き様が問われる譲れない局面だったりするわけで。なあなあの事無かれ主義に別れを告げ、オトナの正解ではなく生徒達にとってのベストを追求していこうとする鈴木先生の思いに胸が熱くなります。もー初っ端の第1話「げりみそ」から非常に熱い。そして深い。表情から訴えかけてくるような生徒の生き生きとした姿に、鈴木先生の鋭い観察眼があいまって非常に味わい深い作品になっています。暗中模索、ベストを尽くしてさえいい方向を見付けられないどん詰まり感と、霧の晴れるような名指導が同居していて素晴らしい。いい方向にせよ悪い方向にせよ、生徒の関係も先生の関係もすべてが変化していくのが鈴木先生の見所。元の鞘に納まるなんて事はなかなか無いのですね。いつも思い込みと勘違いですれ違いばかり。それでもぶつかり合って主張する事で自分の存在意義を証明しようとするわけです。大人も、子供も。人生これまでぶつかる事を極力避けてきた自分のような人間にとっては、なかなか身に積まされる一冊。
2007.02.06
井上雄彦「バガボンド」1〜24巻

「クク・・・変わってませんね。相変わらず自分以外の人間に興味のかけらも無いようだ」(14巻より)
「スラムダンク」の井上雄彦による吉川英治「宮本武蔵」の漫画化。
慶長5年(1600年)美濃国不破郡関ヶ原。天下分け目の大合戦に田舎から一旗挙げる為に参戦した二人の若者、新免武蔵と本位田又八はさしたる活躍も出来ないまま、落ち武者となってしまう。何とか落ち延びてある親子の家に匿われた二人だったが、そこでは野党集団、辻風組との戦いが待っていた。
スラムダンク、吉川英治の武蔵共に未読な私。この間『井上雄彦作品読んだ事無いんだわ』とポツリ漏らしたら友人が既刊全て貸してくれました。誰もが知っている日本一の剣豪の生涯なだけに、チャンバラ中心の大活劇だと思っていましたが意外や意外。主に武蔵が対峙するのは敵の剣客ではなく己自身の心。斬り合いの描写に比べると精神的なものが描かれる比重がかなり大きいです。腕前、技術といったものは努力と時間をかければ自然に身に付いて行くけれど、メンタル面だけは己の弱さと真正面から対峙しなければ成長しない。そして真剣勝負や修羅場でモノをいうのは技巧ではない。作中からはそんなテーマが伺えます。時代に乗り遅れた剣しか能の無い男が、太平の世で上を目指し懊悩しながら猛進していく姿は、現代に置き換えても人生の指針、精神的な指標に成り得るのでしょう。だからこそ長年読み継がれるベストセラーであり、吉川武蔵の人物的魅力なのだと思います。
が、しかし凡庸で怠惰な私には武蔵のパーソナリティーは眩し過ぎてなかなか感情移入できず。序盤から置いてかれっ放しです。どちらかといえば終始ヘタレなマザコン又八の方が感情移入しやすいです。でも又八だって傍から見ればいい感じにジゴロで大成しそうだよね。
作中一番惹かれたエピソードはの佐々木小次郎幼年期(14〜15巻)辺り。現代語で描かれる男前の英雄譚から少し離れて、人間嫌いの初老の男とろうあの赤ん坊の生活が描かれるのですが、これが実にいいのです。セリフも話の展開も素晴らしいの一言。鐘巻自斎センセの自問自答と伊藤弥五郎のグサリと来る指摘が、心にビリビリ響いて痛いやら苦しいやらで大変です。このエピソードだけでも大きな価値があると思います。未読の方は是非。
2006.12.27
作:南条範夫/画:山口貴由「シグルイ」1〜7巻

武士道は死狂いである。そのような状態にある一人を仕留めるのに、数十人がかりでもできかねる場合がある。(二巻後書より)
直木賞作家、南条範夫(故人)の時代劇連作を「覚悟のススメ」の山口貴由が劇画化。江戸時代を舞台に、ある剣術流派の狂気に巻き込まれた二人の若者の対決を描く。
江戸時代初頭、寛永六年(1694年)。駿河藩主、徳川忠長はその尋常ならざる残虐趣味が高じ、ついには御法度である真剣による御前試合が駿河城内にて執り行われることとなった。同年九月四日、第一試合。決闘の場に現れたのは隻腕の勇士藤木源之助と、盲目の美丈夫伊良子清玄。これより死合う二人の侍の間には、実は七年にも遡る因縁があった。
ちょっと前に今面白いマンガは何?と知人に訊くと『シグルイ』と言われる事が多くて、気にはなってたんですが・・・確かにこれは凄いです。作画の圧倒的な迫力、全編に漂う禍々しい雰囲気と妖しさ。立ち会いのわずか一瞬に凝縮された緊迫感。剣術に全てを懸けた若者達が交錯する青春の光と影。読みながら背筋がゾクゾクするのは久し振り。「覚悟のススメ」もいいかげん最高でしたがこれも相当の傑作です。原作は短編と言っていいほど短いらしいですが、ネタバレが怖くて調べられません。それはもうネットで『シグルイ』という単語を検索できないほどに情報をシャッタアウトしてます。久々に続きが気になって仕方のない作品です。
ざっと読んだ感じの主人公は藤木源之助ですが、狂った世界に身を置いているのは実は藤木の方で、しかも彼の考えている事はほとんど描写されないので、どうも伊良子の方が主役に見えてしまいます。野心に燃えて社会の底辺から身を起こし、狂人に虐げられた女性を救う様は正にヒーロー。常人では気が狂ってしまいそうな修羅場を、数々の死線をくぐっていくのも伊良子なら絶望の淵から這い上がって自らと女を蹂躙した者どもに対し復讐を遂げていくのも伊良子ですし。娼婦の母親やいく、海亀のエピソードにしても伊良子は本当に憎めない、いい奴です。7巻でようやくなぜ藤木が虎眼流に盲従するのか明らかになったので、ちょっと藤木も好きになりましたが。ヒロインも断然三重よりいくですね。一途な感じがステキです。いや、実際三重はとんでもない食わせ者だと思うよ。正直見てて怖い。
人気マンガ「ベルセルク」にストーリー(黄金時代辺り)や、作画的にも陰影や身体の描き方などいろいろ類似点が多いですが、14巻辺りから迷走し始めた感のあるあちらよりもシグルイの方が全体的にまとまっていて読ませると思います。緊迫感が作中通して持続しているというか。
2006.11.26
木村紺「神戸在住」1〜9巻

あの頃の思い出はどれも 不自然な程 白い
もしかしてそれは 正規を拒む私の心が 記憶を漂白したせいかもしれない
(7巻P137より)
月刊アフタヌーン連載の日記風漫画。
主人公、辰木桂(かつら)は神戸の大学に通う美術科2回生。阪神淡路大震災の余韻冷めやらぬ街神戸で、桂の大学生活や街の人々との触れ合いがゆったりとしたタッチで描かれる。
絵も話もすんごい好きで連載時からの大ファンなのです。女子大生の神戸絵日記というとオシャレっぽくて一番自分には縁が無さそうなイメージなんですが、特に遊んでるわけでもなくオシャレでもない、色気の無い桂のキャンパスライフはなんだかオタクな自分にも馴染みました。同じく美大を舞台にした「ハチミツとクローバー」や「げんしけん」「四年生」等の大学系コミックと読み比べてみるのも一興。桂の絵日記は特にドラマティックな事が起こるわけでもありませんが、何気ない日常や過去に潜む微細な感情のヒダを丁寧に掘り起こして見せてくれます。今も神戸のどこかに『辰木桂とその友人たち』がいて、そこに行ったら遭えそうな気がする、この空気感は凄いです。正直この『神戸在住』が全部取材によるフィクションだとしたら、作者はとんでもないイマジネーションの持ち主です。考えられない。
スクリーントーンを使用せずベタもたまに使用する程度、ほぼ全ての陰影や色彩を横線のカケアミだけで表現する独自の作画、単純な線でいて的確にその人の個性を反映したキャラやその生活感溢れるセリフ等、この作品の凄いところは枚挙に暇がありません。物語の中で神戸の町並みや文化を紹介していて、ちょっとした観光案内にもなっています。桂の好きな音楽や文学等が、カルチャー的に同世代なので感情移入しやすくもあり。1〜3巻は震災前後のエピソード、4〜7巻はイラストレーター日向さんと桂の淡い恋模様、8巻以降は社会人になって旅立っていく友人達と桂の将来に関するエピソードが中心となっていきます。
当初は作者木村紺=主人公辰木桂というイメージで読んでいましたが、どうやら桂は漫画に縁が無さそうなので、もしかしたら作者=桂の友人の鈴木さん、なのかなと思えてきました。彼女が唯一の漫画家志望ですし・・・まぁ、これは邪推ですが。さて九ヶ月振りの新刊である9巻では、あの洋子ちゃんがパリから帰還したり、伊達先生の誘いで京都の劇団へ手伝いに行ったり。桂の進路もそろそろ固まりだしたんでしょうか。カバーを外すと見れるディフォルメマンガのファンシーさも相変わらずです。
読んでいる最中の桂のイメージは北村薫「円紫師匠と私」シリーズの《私》でした。語り口が桂ととても似てるので、興味のある方はぜひ読んでみて下さい。